ジオ・ポンティは20世紀のイタリアにおいて最もオリジナルで独創性に溢れたデザイナーでした。今回の特別なコラボレーションでは、彼の影響が新しい形で生かされています。
ジオ・ポンティ(1981-1979)は、20世紀イタリアで最もオリジナルで独創性に溢れたデザイナーでした。1920年代から1970年代終わりに至る約50年以上に及んだキャリアの中で、ポンティはモダン建築、家具、装飾美術、また芸術や出版などジャンルを超えて影響を与え続けました。クラシックなフォルムに惹かれながらも現代の技術、経済、美学にも挑む明確なヴィジョンを持ち続けた彼の多芸多才な感性が生んだ偉業は、安易にカテゴリー化することができません。彼は生産方法や原料に至る幅広い熟練技術を多岐にわたるプロジェクトで披露しました。その中には、ヴェネズエラ・カラカスの邸宅ヴィラ・プランチャート、イタリアで最も有名な高層ビル、ミラノのピレリタワー、またメタルの彫刻、フレスコ、セラミック、ガラス、そして繊維製品などが含まれます。ポンティは静かに、しかしながら着実にイタリアのデザインに革命をもたらし、それを神秘的な技巧でビルや椅子、絵画、彫刻、あるいは日常で使われるオブジェの中に浸透させていきました。
ジオ・ポンティがソレントのデイプリンチピ・ホテルのために自らデザインした机の上で、G.Pointi-1の単独でも、あるいはセットで装着してもユニークなディテールのフレームとクリップがひときわ目を引きます。写真:リッチ・ステイプルトン
多くの作品が残るジオ・ポンティ・アーカイブスの中から、オリバーピープルスが彼のデザインをどのように解釈し、それをOliver Peoples Series IIコレクションに取り入れたかを知れば心がときめきます。ここには、ジオ・ポンティの作品の象徴的な要素が集約されています。無駄のないライン、シャープなアングル、三次元の点などが斬新な形でメガネというキャンバスに表現されています。ポンティのデザインの背景と同じく、このコレクションは日々使われるオブジェという概念を越えて予想もしなかったアート作品を造り出しました。 フレームは、毎日の着用に最適でモダンなデザインでありながら、シャープな形、建築的な要素、ブルーが基調の色使い、線に焦点を当てるなど、ポンティの高名な作品の特徴を表現しています。このコレクションのデザイン・ディテールの一つ一つを真に理解し、それぞれの要素を支えるインスピレーションに繋げるためには、ポンティの作品に影響したすべての側面、多くの場合それは建築とデザインの融合という側面、を見ることが大切です。
ポンティの偉業だけでなく、あまり知られていない業績について語る際も、建築とデザインの相互作用がヒントとなります。それは、彼の作品に新鮮さと現実味を与えており、ポストモダニズムやモダニズムといったスタイルについて従来の分類に疑問が呈される今の時代の私達には興味深いものです。 歴史を超えたインスピレーションからくる彼のクリエイティブな手法は、レイベルや分類という考えを脱しつつある21世紀において、より大きな意味を持ちます。
大胆で角ばったデザインは、このコラボレーションの中でポンティの影響が最も顕著に見られる部分の一つ。 -上のG.Ponti-3を参照。写真:リッチ・ステイプルトン
”ジオ・ポンティ“ベース花瓶、リチャードジノリ、1928年© Gio Ponti’s Heirs archive / Gio Ponti Archives /写真:Rago Auction Houseセイモア・スタイン・コレクションより
建築とデザインの根源的な類似性に由来するポンティの美学の特異性を理解するためには、彼の作品が生まれた1920年代のミラノという文化的背景をみなければなりません。ポンティの審美眼は、ジョルジョ・デ・キリコ、またその弟アルベルト・サヴィニオの形而上絵画に大きな影響を受けています。彼らのシュルレアルでありコンテンプラティブ(観照的・黙想的)なアートはウィーン、パリ、そしてベルリンで起こりつつあったモダン建築の新しいトレンドに通じていたのです。概してこの時代は画家、デザイナーそして建築家の間の情熱的な交流が盛んな時期でした。 常に我が道を行くポンティでしたが、理想のフォルマ・フィニータ(完成形)を具現化することに果敢に挑みました。その一つの例は、1923年から1933年の間にリチャードジノリの磁器の作品でみせたデザイン・シリーズでしょう。特に注目すべきは1928年の”鍵とパイプとメガネ“の花瓶(右上参照)です。それは穏やかではない形而上図像と子ども心を思わせる創作力のバランスを優雅に醸し出すもので当時のポンティによる作品の特徴でもありました。ここにある花瓶の例は、ポンティが形而上絵画からいかに効果的にアイディアを引き出し、現実の空間で360度どこからでも見られる独立した3次元の形に表現してみせたかを示しています。
この本質的で偏狭な性質の作品は、ポンティに多面的な活動の基盤を与え、それは20世紀の半ば(1950年から70年代)により顕著になっていきました。彼は自らのキャリアにおけるこの重大な岐路で、多くの大規模な建築プロジェクトを受注し、溢れ出る優れた工業デザインのディテールをもってそれらを豊かで質の高いものにしていきました。異なる規模、層、および要素の間を自由に行き来する彼の技術は、物のデザインと建築の複合的な側面を赤い糸で結び付けています。 この時期は彼の国際的な名声が急上昇しており、彼はちょうどこの頃、自身の建築物の中で最も絶賛されたヴェネズエラ・カラカスの邸宅ヴィラ・プランチャート(1955年)、ミラノのピレリタワー(1955-58年)などを世に出しました。これらの建築作品からは、彼のデザイン・ソリューション(特に家具における)の建築術の特徴と彼の建物が秘めるオブジェ的な特性をみることができます。
ポンティの最も象徴的な建物は今回のコラボレーションに影響を与えている:ヴィラ・プランチャート(1953-1957)、ヴェネズエラ・カラカス。© Gio Ponti’s Heirs archive / Gio Ponti Archives /写真:パオロ・ガスパリーニ)
家具デザインの分野でポンティの最も輝かしい業績といえばスーパージェーラ・チェア(1957)であり、印象的な作品例です(上と下の画像)。三角形の輪郭を描いた垂直支柱と繊細な屈折をなす背もたれを組み合わせる優れた設計が壮麗さを醸し出しています。 これらの特徴は弾力性に加え、その固さと柔軟性から長い間スキー板の素材として使われてきたアッシュウッド(トネリコの木)によって得られる品格をこの椅子に与えています。
ポンティの名作スーパーレジェーラ699は、このコラボレーションの軽量でシャープなディテールにインスピレーションを与えた。© Gio Ponti’s Heirs archive / Gio Ponti Archives /写真:ジョルジオ・カサーリ)
上: 多数残されたジオ・ポンティの絵手紙の一つ。この手紙はウンベルト・カッシーナ宛に象徴的なスーパーレジェーラ・チェアについて書かれたもの。出典© Gio Ponti’s Heirs archive / Gio Ponti Archive
建築物と同様-機能性と軽量性の追求に根差した豊富なシグネチャー・ディテールを備え、オリバーピープルスの新しいメガネフレーム「ポンティ」の商品ラインは厳格で信頼できる生産プロセスで造られます。これら三つの特徴的なフレームは、新鮮でアイロニックな魅力と驚きに満ち、間違いなくポンティの精神を呼び起こします。外側の太い輪郭とデザイン・アクセントのあるメガネは ポンティが大切にしていた「アルタミラ」机1953年(下段、左から4番目)の凸部のフォルムを思い起こさせます。彼の言葉を借りれば、「これは私の傑作だ:自分では戦いの馬(イタリア語で一八番の意味もある)と呼んでいる:つまり、これは極めてシンプルな一個の家具だが形相的には活力がある。」1 オリバーピープルズのポンティ・コレクションが持つ無重力の機敏性は、正にこの特徴を反映しています。1 出典: L.L. Ponti, ”Gio Ponti; the Complete Work 1923-1978” Thames and Hudson, London 1990, p.8
このコラボレーションのもう一つのインスピレーションになった「アルタミラ」机1953年。ポンティ自身の言葉では:「これは私の傑作だ:自分はこれを戦いの馬(イタリア語で一八番の意味もある)と呼んでいる:つまり、これは極めてシンプルな一個の家具だが形相的には活力がある。」© Gio Ponti’s Heirs archive / Gio Ponti Archives / Photo: Giorgio Casali
ピレッリタワー完成の後、ポンティの公式経済と構造的なダイナミズムによって高層ビルの定義が大きく見直されました。構造というものに対する彼の探究と当時のイタリアで最先端の工学の主導者であったピエール・ルイジ・ネルヴィとの密接なコラボレーションはミラノ郊外の都市開発における新しいアプローチへの契機となりました。 また両者は共に工業デザインの新しい様式を明示しました。ポンティは常にこの二つの目標に向かい統一して進むべきだと信じていました。型破りな角度ある輪郭に沿って配置される開放的なフォルムと閉じられたフォルムの相互作用は、斜めの柱身を下から上へ目で追っていくにしたがって明らかになります。
「最も耐久性のある要素は石ではなく、スチールでもガラスでもない。最も耐久性のある建物の要素となるものは芸術である。」ジオ・ポンティ
G.Ponti-2のユニークなメタル要素はパルコデイプリンチピ・ホテルのプールに見られる。
G.Ponti-2の大胆なルックスは軽量なチタンの構造でバランスがとられている。
ここで最も重要なのは、同じオブジェの異なる局面を対話させることへのポンティのこだわり、そして、彼が好んだ屈折を加えた多重線形(オリバーピープルズのデザイナーにとって豊かなインスピレーションの源でもある)は、デザインと建築の様々な規模のレベルでの絶え間ないやり取りであり、これはポンティの偉大な作品において顕著な要因であるということです。
専用のサングラス・クリップなしのG.Ponti-1は、際立って角ばったメガネに感じられる。リチャードジノリのためにポンティが作成したセラミックの手とともに。写真:リッチ・ステイプルトン
フレームのすっきりしたラインのチタン製テンプルとアセテートのフロントの形状、二つのコントラスが美しい。写真:リッチ・ステイプルトン
G.Ponti-1 Tortoise Polished Brassと G-15 クリップ
最も驚くべきは、ポンティが多様な分野で探究をするなか、ともすれば陥りがちな不毛な折衷主義に陥ることなく彼の目的を達成させたこと‐彼は唯一の揺るぎない目標:建築家とデザイナーの両方で一流となる理想を守り、折衷主義を避けたのです。 曖昧な折衷主義ではなく、汎用性を発揮したポンティはデザインを建築の偽りの代替手段にすることを避けました。ポンティにとっては、「建築と共にあるデザイン」であり両者は不可分の試みだったのです。
大胆なデザインのG.Ponti-3は、ダークカラーのガラスレンズとライトウォッシュの配色が楽しめる。
今回のコラボレーションの新しい枠組みは、この心情に寄り添っています。二つの要素を共存させる能力に習い、このコレクションのスタイルは特徴あるデザインのなかで着け心地の良さも常に高めさせています。フレームはオリバーピープルスが発表した中で最もアングルを特徴としたものになっています。例えば、クリップの上のトップバーはフレームの外側を超え、ポンティがデザインしたビルディングや家具を思わせる大胆で角ばったルックスを感じさせます。 ポンティの象徴的な作品と同様にそれぞれのフレームには、かなり特徴ある要素があるにも関わらず全体的な流れがあります。このラインの流れはデザイン全体の継続性を感じさせ、なぜか軽やかな存在感を醸し出します。まさにトロンプルイユ(だまし絵)とウェアラブル・アートの極みです。
文: ブライアン・キッシュ
写真はリッチ・ ステイプルトン(特にクレジットの表示がない限り)